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「あの、手を離しても……?」
手首を掴む熱のこもった大きな手は、彼女の言葉に、びくりとして離れた。
「ごめん!……その、傘も。……ごめん」
そう言って少し俯く表情は、カナコには少し輝いて見えた。
「それは、私の不注意だし、起こしてくれてありがとうだし……ありがとう」
カナコが頭を下げると、彼はおおよその男子が照れ隠しにするように、頭をかいた。
その視線がふと止まる。
「これ、使って!」
そう言うと、彼はカナコの手に自分の大きな黒い傘を握らせた。
カナコが何か言おうと唇を開いた時にはもう、バス停の屋根の外に出ていた。
「学校近いし、走ってく!」
言うなり、彼は秋雨の中を駆けていく。
持たされた傘の柄には、自分のとは違う温もりが残っていた。
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