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それでも何か嫌な予感がするのだ。それが何かと言われると、答えようはないが。そして、こうした予感は大抵が当たるものだ。
「何にしても、あの子は自衛ができません。私の目が行き届かなくなれば、誰があの子に近づくか分かりません。容易に傀儡となるような子ではありませんが、気持ちのいいことではありません。お前があの子の傍にいて、有事の際には守ってください」
「それは勿論、そのつもりであります。ご安心ください、命に代えてもお守りいたします」
「お前の命を容易に取れる者もいませんね。信じています、グリフィス。必ず、その言葉を守ってください」
最後は苦笑して、ユリエルは頷いた。
「ところで殿下。聖ローレンス砦を守る男の事を、殿下はご存じですか?」
グリフィスの問いに、ユリエルは首を横に振った。名は聞いたことがある。それと一緒に、少しの噂も知っている。
聖ローレンス砦を預かるのは、クレメンス・デューリーという若い男だ。貴族の嫡男であり、聖ローレンス砦を含む領地の領主だった。だが、貴族の世界と水が合わなかったのか、騎士となった変わり者と聞く。性格は少々偏屈で、周囲とは壁がある。そういう人物らしい。
「クレメンスという男で、俺の友人です。悪友という方が合っているかもしれませんが。噂ぐらいは聞いたことがおありでしょうか」
「噂ていどでは。ですが、私は噂で相手を評価することはありません。その人物は、どのような男ですか?」
「主に、噂通りかと思います。偏屈ですし、付き合いづらい部分もあります。ですが、能力は高いかと思います。武というよりは、智として」
「ほぉ」
ユリエルは鋭い笑みを浮かべる。その瞳には明らかな興味と、そして野心が浮かんでいた。
「用兵、諜報の才があるかと思います。先読みの力もあるでしょう。王佐の才、とまで言えるかは分かりませんが」
「お前がそう評価するのなら、そのような才があるのでしょう。お前は他人の評価に手心を加えるような奴ではありませんからね」
グリフィスは少し顔を赤くし、恥ずかしそうに視線を外した。意外な評価だったのだろう。
「武については劣る事はありません。腹を割って話してみてはいかがでしょうか。おそらく、貴方の力になります」
「不穏な事にも乗ってくれそうですか?」
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