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意地悪に笑って問うと、グリフィスは予想通り眉根を寄せる。誠実を体現したようなこの男は、暗い話を好まない。
だが、ユリエルにとっては重要な部分でもある。そのクレメンスという男が有能で、かつ野心家なら取り込みたい。一緒に悪い企みをしてくれる仲間が欲しいところだ。
「…現状に、満足してはおりません。それに、求める国の形もございます。程度にもよりますが、貴方に興味は持つかと思います」
「なるほど、参考にさせてもらいます」
控えめに言っただろうグリフィスの言葉に、ユリエルは満足そうな笑みを浮かべた。
「それと、よければ俺の馬を連れて行ってください」
「ローランを?」
突然の申し出に、ユリエルは首を傾げて問い返した。
ローランは国一番の名馬ともいえる黒馬だ。逞しい体躯の駿馬で、力も強くなにより動じない。ただ、気性が荒く乗り手を選ぶので、今はグリフィスしか乗っていない。
ただ、ローランはユリエルの事も気に入ってくれていて、乗せてくれる。ただ、ユリエル自身がローランほどの名馬に乗る必要性がないので、グリフィスに任せているのだ。
「あれは強い馬です。きっと、殿下の思うように動いてくれるでしょう。お使いください」
「お前は?」
「俺はしばらく王都を離れる事はございませんので、乗ってやることがありません。お気遣いなく。俺の代わりに、貴方を守ってくれるでしょう」
これも彼の気遣いかと、ユリエルは頷いて礼を言った。
王都の夜は更けていく。この時、密かに暗雲がこの王都へと忍び寄り、やがて飲みこむとは、誰も気づきはしなかった。
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