咆吼

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 現在は深夜、城に人は少ない。家臣の大半は自宅にいる。それが、不幸中の幸いか。 「陛下、城の正面門が無事なうちに避難を考えるべきかと存じます」  グリフィスの進言に、王は深く頷いた。そして、傍らに控えている老齢の男に目配せをする。その視線を受けただけで、老齢の男は一つ丁寧に礼を取って出て行った。 「グリフィス、第一部隊はどのくらいここに残っている」 「精鋭百を残しております」 「それを連れ、シリルを連れてここを離れろ。ルートはお前に任せる」 「はっ」  一つ深く礼を取ったグリフィスは、内心安堵した。もしも城に残って戦えと言われたら、進言しようと思っていたのだ。 「第二部隊は残りの兵を使って城を守れ」 「はい」  グリフィスの隣にいる、壮年の騎士が短く答えた。  城の中はその間にも大騒ぎとなっていた。兵ですら、この突然の夜襲に狼狽している。  グリフィスは真っ直ぐにシリルの元へ向かった。おそらくこの騒ぎで、心細く不安な思いをしているだろう。そう思って扉を叩くと、意外と落ち着いた声が返ってくる。  扉を開けると、緊張した面持ちではあるが、しっかりと準備を整えたシリルが立っていた。 「何があったのです?」  不安そうに瞳が揺れている。胸当てをつけ、外套を纏い、小さな手荷物を持ち、腰には慣れない短剣を差している。おそらく、ある程度の予測はしているだろう。 「敵襲です。陛下から、シリル様を連れてここを離れるよう仰せつかりました。お辛いとは思いますが、同行をお願いいたします」 「父上は、大丈夫でしょうか」  それには、なんと答えていいか分からなかった。王の様子からは、何とも言えなかった。もしかしたら、ここに残るつもりなのかもしれない。少なくとも、率先して逃げる気はなさそうだった。 「陛下には、陛下の覚悟がございます。貴方は逃げねばなりません。これは陛下の願いでもあり、王子と生まれた者の義務です」 「義務…。そうですね」  辛そうに瞳を伏せながらも、シリルは頷いて歩き出す。それに、グリフィスは安堵したのだった。
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