不遇の王太子

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 更にもう一つ気になると言えば、あまりに手ごたえがなかった事だ。捕えた兵を尋問したが、新王に関する事は一切話さない。  何か嫌な予感がしている。何か裏があり、その為にラインバールでの戦を利用したのではないか。そう勘ぐるのは、ユリエルの悪い癖だと思いたかった。 「して、陛下。私を呼んだ理由は労をねぎらう為ではないでしょう。用件は、どのようなものですか?」  王の言葉をユリエルは待った。ジェードの瞳が、王を見据える。それに、王は深く息を吐いた。 「お前には王都を離れ、聖ローレンス砦へと赴いてもらいたい」  その命に、ユリエルは片眉を上げた。 「王太子たる私を、王都から地方へと移す、という事ですか?」  これにも、王は答えない。答えられないのだろう。 「つまり、私をお役御免にして遠ざけたいということですね?」  鋭い瞳を隠さず、ユリエルは問う。それに、王は何も言わなかった。 「弟の王位を確立したいが為に、私を追い払うのですね?」  もう一度、重ねて問うた。それにすら、王は答えない。だがその理由を、ユリエルはよく知っていた。  ユリエルの腹違いの弟シリルは、優しくて純粋で、色々な意味で無知だ。そして、ユリエルよりも母の位が高かった。  王は正妃との間に子がなかなかできなかった。その為、貴族の娘を側室に迎えた。これがユリエルの母だ。  王は長子を生んだユリエルの母に、この子を王位につける事を約束している。だがそれは、十年あまりで覆された。正妃との間に男児が生まれたのだ。  これによって、ユリエルと母は城内で立場がなくなり、不遇の日々を送る事となった。そしてそれは今も続き、母は顧みられることもなく亡くなった。  今も城の内部では身分が上の弟を王太子とし、後の王へと考える人間が多い。彼の方が扱いやすいと踏んだ輩が多い証拠だ。 「母との約束を、決定的に違えるのですね?」 「すまない」  項垂れた王が言ったのは、たったそれだけだった。 「貴方を責めるつもりはございません。国の首座として決定した事ならば、一将兵に頭など下げる必要はありません。例えそれが、一度でも愛した女性との約束を違える結果でも、息子である私が相手でも」
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