出会い

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それは、ある夏の日の夜半。ロウソクの灯りが照らす執務室で二人の青年はグラスを傾けていた。 静かにグラスの酒を傾ける金髪の青年は、この執務室の主であり、この国で五本の指に入ると言われる軍が誇る最強の隊長であるイザルグ・ル・ディオ、荒々しくグラスの酒を空ける銀髪の青年は、イザーグが率いる隊の信頼の置ける副官であるホワイト・ヴァルディシオであった。 「それで聞いて下さいよ。隊長! アナったら酷いと思いませんか!?」 「……妹が迷惑をかけて、すまない……」 仕事中は隊長と副官という関係の二人だが、普段は妹の夫と、妻の兄という関係ーー義理の兄弟ーーである。仕事以外では、この様に互いの家族の愚痴や悩みを話せる仲であった。 先程から話題に出るアナことアナスタシアは、数年前にホワイトの元に嫁ぎ、二人の間に一人娘をもうけたイザルグーーイザーグの血の繋がらない妹である。今は娘のスカーレットを連れて国境近くの村に避暑に行っていた。 「それに比べて、隊長の奥様のリコリス様は、いつまでも可憐なお姫様って感じですよね。家庭的で、女性ぽくてーー結婚してまだ一年でしたっけ?」 「いや。正確には『もうすぐ』一年だ。まだ一年は経っていない」 こんな風に気安く言えるのも、義理の兄弟ならではーー隊長呼びは癖らしいがーーである。 イザーグの妻であるリコリスことリズは、一年前、ある事情で長年冷戦状態であった隣国から、イザーグにより人質として連れて来られ、監視下に置かれた少女であった。元々は隣国の皇女の側仕えであった姫巫女と呼ばれる存在であり、皇女の身代わりとして人質になったーーとされている。 しかし、真相はイザーグの一目惚れであり、リズに近く大義名分として、人質という形で自分の元に連れて来たのであった。 そのことをリズが初めて知った時は、かなり怒られたが、二人で過ごす内に情が芽生えたようで、人質解放後、自らこの地に残り、イザーグの求愛を受け入れ、妻となった。 現在は、リズに仕える双子メイドのアンリとメアリを連れて、アナとスカーレットと共に避暑に行っていた。その間、イザーグが住処である屋敷に帰ってもいるのは、父の代から仕える使用人のイーグルだけであり、そんな寂しい屋敷に帰っても退屈な為、義弟のホワイトを巻き込んで軍の執務室で一杯飲むことにしたのであった。
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