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四年間つき合った彼と、話し合いの上で別れた。結婚も考えた人だった。
「一人相撲だったわけよ、四年間」
思わず漏れ出る独り言に振り返る通行人もいるが、構うものか。何てことはない。彼は新しい女の子に乗りかえたのだ。彩実より少し器量が良くて、スタイルが良くて、気立ての良い若くて新鮮な女の子に。一ヶ月前のことだ。
「幕内(嫁)になる才能がないと見るや、新弟子にもってかれたー」
癒えたと思った傷は、カサブタとなっては剥がれることを繰り返し。二十八歳を迎えた夜も彩実は一人、街を彷徨っていた。目的もなく歩く中で、様々な主張が目に映る。
『22歳以下、学割利用可』
『月曜日は夫婦割ディ』
━━どこにも当てはまらないってば。
ささやかに毒づく彩実の瞳は、一際デカデカとした文言を捉えた。
『今なら乗りかえ0円』
「やかましいわ」
ケータイショップの、ガラス張り扉に貼られた誘い文句だった。窓際にたたずむ罪のない店員をにらみつけるも、完全な八つ当たりだ。虚しさすら覚えながら通りすぎようとした彩実は、行く手を遮られるようにチラシを差し出された。
「占い居酒屋『占酔』でーす」
━━占い居酒屋?
「怪しいわぁ……」
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