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「高山様の特販品、誰が渡した?」
浪越屋デパート外商部課長にして売り上げナンバー1、最前線エース外商部員の黒澤寿樹の怒号がフロアに響く。店頭カウンターに勢ぞろいで着くギフト班・特別チームの面々が、一斉に彩実へと視線を送った。
「私です……」
━━ダメだ、逃れようがない。
恐る恐る、利き手をゆっくりと上げる。
「何だ、その手は。ちあきなおみ『喝采』でも歌い始めるのか」
「え、ち……何ですか?」
「あ~、もういい!」
あからさまに苛立った様子の黒澤は、右手に持っていたボールペンを彩実の座っているカウンターテーブルに叩きつけた。
「高山様の注文品、中身知ってるのか?」
「『らくらく座椅子』です!」
居住まいを正し答える彩実に向かって、黒澤は芝居がかった風に肩を落とす。はぁ、と大きなため息を目の前でついたかと思うと、顔を上げた瞬間、『海老蔵張り』と噂の高い目力でニラミをきかせながら、一気にまくし立てた。
「あの品はなぁ、小さいけど、細かい組み立てが必要なんだよ。高山様の年齢知ってるか? 七十八歳。後期高齢者なんだよ! ちまちました説明書読んで、組み立てられると思うか? 外商客の注文品が届いたら、まず俺のところへ持ってこいよ!」
「あの、でも、高山様が、届いているなら自分で持ち帰りたいと直接店頭に来られて……」
「馬鹿野郎!」
精一杯の言い訳も、火に油を注いだだけだった。
「『人気の商品なので、納品まで少し時間がかかっております。改めて担当の黒澤がお届けに参ります』とか何とかいくらでも言いようがあるだろうが! 嘘も方便って言葉を知らないのかよ? 頭使えよ、このゆとり!」
土下座をした上から後頭部を踏みつけられ床板を割るくらいの勢いで、けちょんけちょんにけなされる。
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