【第二の男 隣人・白鳥】

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「文化祭の劇で主役やったり、体育祭でチアリーダーやったり。一色さん、目立ってたからね」  文化祭で主役?  体育祭でチアリーダー?  目立っていた!?  身に覚えのない思い出話をされ、やんわりと「すみません、人違いではないですか」と否定してみせるも、白鳥は右手で額を抑え、左手を天に掲げるという欧米のコメディアン並のオーバーリアクションと共にまくし立てた。 「またまた~。宝塚のパロディ劇で金髪巻き毛カツラ被って木刀掲げて『シトワイヤン、行けー!』って叫んだり、ポンポン持ったままミニスカートで側転してブルマ丸見えにさせながら手首捻挫したりしてたじゃない。M高校のマドンナ、一色さん!」  金髪カツラに木刀?  ブルマ丸見えで捻挫?  M高校のマドンナ!?  確かに自分は『M高校』出身の『一色さん』で、うっすらと記憶が蘇えかけるも。そんなのは単なる若気の至りで、武勇伝でもなければマドンナのエピソードでも何でもない。顔も名前も記憶にない同級生に出会って数秒で思い出されるほど悪目立ちしていたのかと思うと、鏡を見ずとも彩実は顔面が熱く赤く染まるのを自覚する。 「すみません、よく覚えてなくて……」  相手を傷つけないように、刺激しないように。接客業で身に着けた営業用の笑顔(スマイル)を向ける彩実に、白鳥は語尾にハートマークがつくようなセリフをぶっ放した。 「耳まで赤い。可愛いね」    さらには、額に当てていた右手を伸ばしたかと思うと、ふいに彩実の左頬に触れてきた。 ━━はぁ~!?  同級生だと名乗る隣人の男は邪気のない笑顔をヘラヘラと見せると、固まる彩実を瞬時にあっさりと解放し、両の掌をヒラヒラと舞わせながら隣の404号室へと消えていった。  恐るべし、自称同級生であり隣人の白鳥礼二。上司の黒澤といい、今日という日は何て日だ。
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