61人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
ブツブツとつぶやきながらも、なぜか足は自然と描かれた地図に倣い進む。彩実は占い居酒屋『占酔』があるとされる方角へと向かっていた。
「らっしゃいませ~!」
迷うことなくたどり着いた『占酔』店内では、若い店員の威勢の良いあいさつが飛び交っていた。普通の居酒屋と、何ら変わりない。
━━まあいいか。二千円で飲み放題なら、充分に元が取れる。
チラシに添付されたチケットをもて遊びながら、店員の誘導を待つこと一分。
「お一人様ですかぁ?」
━━お一人様ですが、何か!?
間延びした店員の声にすらかみつきたい衝動を何とか抑えつつ、案内された席に着く。立てかけてあるメニューを手に取るや1ページ目をめくり、思わず声を上げた。
「何、これ?」
コスプレ風俗の宣材プロマイドかと見紛う写真が、プロフィールとともに貼られてある。
「本日、指名できる先生方です。当店は指名制度となっておりまして……」
慣れた様子で、若い店員は流暢に説明を始めた。複数の占い師を常駐させているということは、『占い居酒屋』とは名ばかりではないらしい。口をポカンと開けたまま、彩実は強烈なビジュアルの占い師たちの写真に見入っていた。
「どの先生になさいますか?」
「あ……じゃあ、この人で」
若い店員からせかされ、吸い寄せられるように金髪縦ロールヘアが一際目立つ占い師を彩実は指さした。
「『ヴィーナス先生』入りました~!」
━━ヴィ……?
プロフィール欄に『ヴィーナス・美朗』と記名されている。待つこと五分。中ジョッキビールを半分ほど飲み終えたところで、その名の通り朗らかな占い師が現れた。
「ヴィーナスでぇす!」
最初のコメントを投稿しよう!