【第二の男 隣人・白鳥】

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 コンクリート・アパートの外階段を上りきった405号室の手前で、反射的に彩実は足をすくませた。最上階である四階の自室前に、見慣れない男が立っている。しばらく息を潜めて様子を見守るも、立ち退く気配がまるでない。 ━━もしや、ストーカー? 「だから、自意識過剰かっつーの!」  自身の心の声に、無意識で喝を入れていた。口元を押さえるが後の祭り。当然、その声は見知らぬ男にも届く。ブンッと音の鳴りそうな勢いで振り向かれる。何者であるか分からない男を刺激しないように、彩実はゆっくりと低いトーンで尋ねた。 「あの、うちに何か、ご用ですか?」 「405号室の方ですか?」  定位置で佇む彩実の目前に、ずいっと男は歩み出る。 「隣の404号室へ越してきた、白鳥です!」  引っ越しのCMのように白鳥と名乗った男は、両手に載せた四角い小箱を差し出す。『粗品』と書かれたのしが、ぐるりと巻かれていた。  独居人の多いワンルーム部屋のアパートで、こんな律儀なあいさつをする人間がいるのかと軽く脱力した彩実は、「どうも、ご丁寧に」と受け取る。そして、そのまま速やかに自室へと帰る……はずだった。 「もしかして、一色さん?」  ありふれてはいないはずの苗字を、初対面のはずの白鳥が瞳を輝かせ呼ぶ。掴みかけていたドアノブから利き手を離し固まる彩実に構わず、隣人・白鳥は語り始めた。 「一色さんだよね? M高校の。俺、同級生でサッカー部だった白鳥(しらとり)礼二(れいじ)。あ~、一緒のクラスになったことないから、覚えてないか」 ━━誰?  全く、記憶にない。
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