【第三の男 信者・青木】

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 隣人・白鳥の気配を気にしつつ、毛足の長いラグに腰を下ろす。家具は楕円形の小さな折り畳みテーブルのみ。別れた……もとい、若い女に寝取られた彼と結婚するつもりでいた彩実の部屋には、最小限の荷物しか残していない。けれど……。 「もうしばらく、ここに住むことになるなぁ」  ずっと独りで生きていくのだから。  音を立てないように携帯電話を手に取り、そっと画面を開く。SNSアプリのアイコンをタップする瞬間が一日のうちで一番至福の時と言える。寂しいけれど、ストレス解消といえば、こんなことくらいしか思いつかない。 「寂しい人生だねぇ」  実際に自虐的な独り言をつぶやきながら、アプリの画面にテキストを起こした。 『何だか、変な一日だった。』  南向きの窓から見える僅かかな夜景の写真を添えて投稿すると、間髪入れずにポーンとダイレクトメッセージの届いたことを知らせる通知音が響いた。 『「変な一日」って、どんな一日?』  ポップアップには、ブルーライトの電飾で飾られたもみの木のアイコン。メッセージの送り主は、フォロワーの一人である【青木】だった。 『仕事とプライベート、慣れないことが一辺に押し寄せた一日』  いつもなら、一晩寝かせて返信するのだけれど。黒澤と白鳥から受けた謎の行為に触発されたせいか、彩実は速攻で返事を送る。秒の速さで青木から再びレスポンスが返ってきた。 『お疲れ様です。無理をなさらないように。』 『ありがとうございます。』  ここで終了するはずだった。  けれど尚、彩実の締めのメッセージに青木は反応を見せる。 『私は、頑張り屋なあなたの信者ですから。』 「はぁ?」
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