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「ヴィーナス……ビ……ビロウ?」
「ミロ、よ。ヴィーナス・美朗。ご指名、ありがとうございまぁす!」
キャバクラ嬢のようなノリでやってきたヴィーナス・美朗は、明らかに男だった。
「ちょっと。『写真、修正かけまくりじゃねーか』って、思ってるでしょ!」
紗の入ったプロフィール写真では美形の女性のような写りだったが、確かに実物は全体的にゴツゴツとしている。そして、顎まわりのヒゲ剃り跡が青かった。
「まあ、いいわ。早速始めるわよ。あなた、男に振られたわね」
「すごい、当たり!」
ヴィーナス・美朗のビジュアルとノリに圧倒されつつも、思わず彩実は小さく拍手した。客の注文したつき出しの枝豆をむさぼりながら、金髪の占い師は無遠慮に続けた。
「女が一人でこんなところへやって来る理由なんて、男に振られたか仕事が上手くいかないかの二択よ。あんた、バリバリ働くタイプには見えないし、だとすると男がらみの悩みに絞られるわね。こんなの占いでも何でもないわよ、バカね」
金髪縦ロールを揺らしながら一息にまくし立てたヴィーナス・美朗は、深いため息をついた。
「それで、どうしたいわけ? ①自分を振った男と、よりを戻したい ②自分を振った男を見返せるくらい、いい男と付き合いたい ③とりあえず、手当たり次第にモテたい……さあ、どれにする?」
「どれって……」
ジョッキのビールが底をついてしまったので、お代わりを頼みつつ彩実は首を捻り考えた。
*
ここから先は、なぜか記憶が途切れ途切れになっている。
*
「男は信用ならないってことがよく分かったし、手当たり次第にモテてみるのもいいかもしれないっすね」
そんな答えを言ったような気がする。
「そうね。あなた、よく見りゃ年齢のわりに可愛らしい顔立ちしてるし、色白肌に手入れのいき届いた黒髪ロングヘアなんて女神の条件も充分にそろってるしね。③番でいいわね」
「女神の条件?」
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