第二十一話:南海は呼ぶ

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○ 西暦2050年、9月初頭。 日本、スコール社屋ビル。 スコール社の私設軍事部門、特殊戦技教導隊の一員、カゲトラ・アマノとクロード・カージュは、社長であるジューン・スコールに呼び出されていた。 案件は、「重要な話」、それだけしか告げられていない。 ついこの間まで、クレメンテ公国、そしてアインスト大災害に見舞われていた日本。 そこでそれぞれ、大口の任務をこなしていた教導隊メンバー。 果たして今回も、それに比類する厄介事が発生したかと、身構えながら社長室を訪れたトラとクロードだったが。 「はぁ!?」 「出張……………それも、全員揃って…………?」 疑問、違和感を隠そうともしない2人。 通常、教導隊の任務とは、シングル、ないしツーマンセルが基本単位である。 世界各国より舞い込む、様々な依頼、そのオーダーに応えるために、1つの任務にそう多くの人材を割けないのは必然だが。 「そう。特殊戦技教導隊は、全員沖縄への出張を命ずる。」 スコールは、もう一度ハッキリと告げた。 間違いなく、教導隊全員参加の任務となるらしい。 ウィーンでのサミット護衛以降、まだ一月と経っていない短いスパンでの「例外」に、トラは思った疑問をそのままぶつけてみる。 「沖縄で、なんかあんのかよ、社長さん?」 「自衛隊の新型機の、公式初御目見えがある。それの見学だね。」 スコール曰く、沖縄の在日米軍基地の協力のもと、その新型機のデータ取得が1対1の模擬戦形式で行われるらしい。 なんでも、国産初の「特機」に分類される機体らしく、世界各国様々な軍事関係者を招待しての御披露目になるという。 「随分と派手な宣伝だな。」 クロードは、呆れた様子で呟いた。 特異戦力である教導隊、民間人にまで、大々的に公表というのは、ただ事ではない。 これまでEU連合の独壇場だった特機の国産に成功したなど、世界規模の軍事バランスに一石を投じかねない一大事。 欧州はもちろん、諸外国との軋轢が生じるのは必至である。 通常、軍事機密として、徹底して隠匿すべき情報を敢えて晒す理由。 「デモンストレーションだろ。多分だが。」 それはおそらく、示威行為にあるとトラは予想した。 アインスト大災害。 単純な死者数だけで1500万人超と、先進国が受けたアインスト被害では、最大最悪と言っていい事件である。
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