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二両目と三両目の激しく揺れる連結部分を小股二歩で無事渡りきった私の視界は鼠色の扉を捉えたあとは一直線だった。素早く歩み寄り鈍く光る扉の取っ手に手をかけると思いっきりレバーを手に横にスライドするべく力を入れた。しかし扉からはガチャ、ガチャガチャ、ガチャという音は聞こえるも、列車内トイレの扉が開く時にする独自の「ガチャン」という音が一切しない。ああ、何たることであろう。私はまさかと思いつつ視線を取っ手から扉上部に目をやると「使用中」と赤い文字を発見する。 そもそもこの普通列車は地方路線を走る三両編成。車内のトイレは男女共用一つのみ。とはいえ、この日の乗客は三両あわせて見る限りは十名弱しかいない。 何故、このタイミングでトイレが使用中なのか。自分の運の無さにほとほと呆れ果てる。しかし考えてもラチは開かないであろう。私は出来る限り体への負担を減らすためにトイレの扉の目の前の席へゆっくりと腰掛けた。 ドンドコドンドンドン・・・・・ 相変わらず腹の内側から腹太鼓が鳴り響く。 モジモジしたい。お腹を押さえて前屈みになりたい。その前にジーンズ下したいとかパンツ下したいとか色々と切実な思いが色々浮んでは消えていかない。そう、消えないのである。 しかし自分の経験から言わせてもらうと、急を要する時は決して焦ってはいけない。そう、トイレの扉はいつか開く筈・・・。しかし万が一「開かずのトイレ」が存在するとしたら・・・?そんな話は 怪談だけで十分だ。そんなことを考えながら、私はトイレの中の気配を探るべく集中する。
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