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あれはかれこれ十年ほど前に遡る。
某国鉄の普通列車乗り放題切符で一人旅をしていた時のこと。
車内には乗客が三名しかいなかった。そんな閑散とした車輌のボックス席(※)を独り占めした私はその日何度目か数え切れない行動、腕時計に目を落とせばあと二十分弱で駅に到着予定だ。1二十分ちょっと、嗚呼二十分弱。たかが二十分弱。されど二十・・・なのである。
いつもなら本を読んでればあっと間の時間にも関わらず、私はお腹の上に本を開いたまま乗せて車窓の外に広がる田園風景と月を睨みつけるように見つめる。
『腹、頑張れ』
どこからともなくそんな声が聞こえた気がした。
トイレは諸事情により出来れば我慢したい。しかし私の意に反して腹はグルグルと鳴り出す。更に振動に呼応するかのごとく、左右に分かれた尻の奥深くにグイグイと何かが押し寄せてくる生理的な不快感の波に私は翻弄されるのである。
腹もそうだが、それ以上に尻を気にしてはいけないと自らに固く言い聞かせ「もう少し、もう少し・・・」と念仏か呪文のように何度もブツブツ一人呟く。しかし残念ながら便意が一時的にでも治まる気配はまったくなかった。
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