今日

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 晴でもなく、雨でもなく、曖昧に曇った空を見上げ僕は溜息を吐いた。僕は曇り空は好きだ。両極端な天気より、曖昧なあの曇り空が好きなんだけど……。 「ねぇ、栖(スミカ)あの雲……今にも泣きそうよ。まるで、今のアンタみたいね」  僕の肩を叩き、空を指差し愉しげに笑ったのは隣を歩く有夜(アリヤ)。  決して悪い奴ではないんだけどさ。正直言うと、この娘〝有夜〟の事あんまり得意じゃないんだよね。 「アンタどうしたのよ。また、考え中?」  僕の返答がないことに首を傾げ、有夜は僕を見上げてきた。 「"また"とは、なんだ。人間は日々常々考えることを辞めれない、難儀でとても可哀想な生き物だ。だから、"また"ではなく"今も"の方が正しい。」 「ふぅん。相も変わらず難しいことを言うのね、栖は。アンタが一番難儀な生き物だと思うわ」  相も変わらずとは酷い言われようだ。然し、難しいことを言ったつもりは無い。僕なりの、正論を述べたまでだ。  だけど、幼少期よりこんな性格故か話しかけてくる奴なんて居なかった。そう、唯一人有夜を除いて。  時に、嬉しかったりした。有夜だけはどんな話にも付き合ってくれて、何より聴くときは真剣に向き合ってくれて、話を理解してくれた上で疑問と意見を述べてくれる、良い奴だ。 「あ、そうだ。栖、今度また遊びに行かない? 無理にとは、言わないから考えといてよ。じゃぁね」 「あ、あぁ、うん。解った、考えとく……って、もう居ないし」  威圧力の有る有夜は、時々〝考えといてよ〟なんて言いながら、有無を言わせない所がある。答えも聞く耳を持たないのだ。だから、平気で人の返事も待たずどこぞに駆けていく。まるで、時計兎のように常に何かに追われていた。  否(いや)、我が友ながら流石と言うべきか。まぁ、僕は其処が苦手なのだけど。  彼女は、矢神 有夜 (ヤガミ アリヤ)。名前の所為で男に間違われるのが難点なんだと彼女は言っていたが、僕は素敵な名前だと思う。笑むと、チラリと顔出す八重歯がチャームポイントな普通に元気印の女の子で社交性もある。  然し、遊びに行くねぇ……。僕は、遊び行くのは苦手なんだよな。話の通じないエゴに塗れた人間が沢山居るとこに好んで行こうとは思えないのだ。  僕が、捻くれ者なのか斜め凭れた所から色眼鏡で世界を観ていると、誰かが言った気もするが、果たしてそれが誰なのかは思い出せないのだ。
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