明後日

2/2

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 言い忘れていたがこの鏡の世界【御伽噺の国】では約束を取り付けた場合、約束を取り付けた日を〝今日〟約束日迄のカウントを〝明日〟〝明後日〟〝明明後日〟と数える。約束日は〝明日〟〝明後日〟〝明明後日〟迄の三日間に終わらせる決まりがあるのだ。  さぁ、キョウは約束した〝今日〟から数えて〝明後日〟つまりは、約束した〝今日〟から二日目。  キョウからして約束の月曜は、アシタ。約束した今日から数えて、〝明明後日〟。面倒で、ややこしいが、これが鏡の世界【御伽噺の国】の黙秘規則なのだ。  さて、キョウも曇り空の御伽噺の世界。気分が良い、だから外に出掛けようか。そうだな、有夜……彼女の顔を見に。  行きながら、歩きながら、キョウは僕の噺でもしようか……とんだ、独白だな。  ははっ、まぁいいさ。アリスコンビが観られるのは……最後なんだから。と言っても、懐かしい懐かしい過去噺だけどね。  この、鏡の世界【御伽噺の国】は現実(リアル)の世界の人々の、過去を準えた世界なのだ。だから……だから、僕だけが現実(リアル)の世界の人々の過去であり、鏡の世界【御伽噺の国】の人々の――有夜や他の住人の未来を、結末を知っているんだ。  確か……あの角を右に曲がると、丁度有夜が来るはずだよ。愛用のマカロンカラーのケースに入れたスマフォを弄っていた有夜は、ふと僕を見つけて周りを目に映さずして此方に走って来ながら言うんだ。  僕は角を右へ曲がった。ほらね、有夜が愛用のマカロンカラーのケースに入れたスマフォを弄りながら、足音に気付いた。顔を上げて、僕を認識すれば満面の笑みで声を掛けてくる。 「あら、栖じゃない。どうしたのよ。約束日は明明後日(アシタ)よ」 「あぁ、気分でね。散策だよ」 「アンタの考えは、ほんとよくわからな――」  彼女は、最後まで話すことはなかった。今、目の前で崩れ落ちていく有夜が居る。朱い華を咲かせ散らしながら。  嗚呼、僕は今でも笑顔なのだろう。唯一の友を喪ってさえ笑顔だなんて、どんなに薄情且つエゴティストなのだろうか。  所詮は、僕の〝過去〟のエキストラな訳だ。有夜は素敵だったのに、何よりも可憐で、明るく素敵だったのに……。  散り際は、儚く脆い花弁のようで朝の迫る夜のようだった。  其れもまた、有夜によく似合った素敵な最後で、僕は一層笑みを深くしたようだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加