第1R『オタクで何が悪い!?』

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さっきのアキバでの嫌な記憶がよみがえる。恐る恐る振り返ると、そこにはジャージを着た、満面の笑みの男の人が立っていた。 「ボクシング気になりますかー?よかったら、中に入って見学していいですよー。大丈夫。怖くないから。さぁさぁ、どうぞ、どうぞ」 男の人はそう言いながら、僕の手を引いて、中に連れていこうとする。必死に拒んだけど力が強く、引きずられるようにジムの入り口へと向かっていく。 「あ、あの、いや、僕は…」 力を振り絞り精一杯抵抗する。 「あ、そうだ!」 男の人は急に手を離し、まっすぐ背筋を伸ばし気をつけをした。力を入れていた反動で転びそうになるのを耐える。 「紹介遅れました!私、この彗星ジムでトレーナーをやっております。平田克己と申します」 「あ、佐々木と申します。いや、そうじゃなくて…」 いきなりの自己紹介に驚き、反射的に返してしまった。 と、次の瞬間、すぐに腕をつかまれジムの入り口へと引っ張られる。あー今逃げればよかったぁ…。 そのままジムの中へ引きずりこまれてしまった。 「どう?怖くないでしょ。このボクシングジムはアマチュア専門のジムだから女性も多いし、明るくて綺麗なのよ」 入り口を入った所で立ち止まり説明をはじめた。確かにイメージしていたボクシングジムとは違って綺麗だった。汗臭いイメージだったけど臭くもない。どこからか女性のいい香りがするぐらいだ。 「は、はい。確かに綺麗です」 気の入ってない返事をしながら、ボクシングジム全体を見渡す。男女合わせて十人ぐらいの様々な人が練習をしていた。男女比はちょうど半々ぐらい。その中にバンテージを巻いて、ボクシングシューズを履いたあこたんの姿があった。スラッとしなやかな体は、可憐で華麗で香のよい一輪の花のようだ。ついつい見惚れ、固まってしまった。 それに気付いた平田と名乗る男の人は声のトーンを落とし、僕にだけに聞こえるよう耳元で話した。 「おっ!生野(しょうの)さんね。綺麗でしょ。彼女ね、アイドルやってるんだって。まだそんなに売れてはないみたいだけどね」 平田さんの言葉で我に返った。ブルブルっと頭を振り、あこたんに視線がバレないように、さっと平田さんの方に向き直った。 「おっ!いい目してるねー。どう体験してみる?千円いただくけど。まぁ入会すると入会金から千円引くしお得だよ」 「い、いや。あ、あの、僕は…」
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