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「よし!じゃあ、早速打ってみようか。佐々木君だったよね?佐々木君は右利き?」
「は、はい。右利きです」
「よし!じゃあ。まずは思いっきり右ストレートをサンドバッグに打ってみよう」
「は、はぁ」
右ストレート?さっきのへなちょこパンチみてなかったのかなぁ?目の前のサンドバッグを一ミリも動かす自信がない。
平田さんは、さっと構えて説明しはじめた。構えだけでわかる。この人も絶対ボクシングをやっていた。
「まず、両手を目の高さまであげ、脇を締めて両拳を顔にひきつける。今度は足を肩幅まで広げ、そのまま右足を半歩後ろに下げて、つま先を四十五度、外側に向ける。そのつま先に合わせて体を半身にするっと。これで構えは完成」
説明は長くて分かんなかったけど、見よう見まねで構えてみる。
「おおー。なかなか様になってるよ。本当にはじめて?」
絶対お世辞。でもうれしい。
「あ、ありがとうございます。はじめてです。マンガとかアニメとかで見たことはありますけど」
「あははっ。そうかー。確かによくあるな、こんなシーン。主人公はこのあとすごいパンチを繰り出す訳だ」
その言葉で色々なアニメを思い出し、テンションが上がった。ますますやる気が出た。もしかするとすごい才能が隠されてるかもしれない!
「じゃあ、打ってみようか。左足をしっかりと踏ん張って、右足のつま先で蹴るように腰を回し、その勢いで右腕を伸ばす!そして、当たる瞬間に拳を内側にひねるように打ち抜く!」
平田さんが見本を見せると大きな音と共にサンドバッグが大きく揺れた。ギシギシと音を立てて左右に揺れるサンドバッグを平田さんは抱えるように止めた。
「す、すごい!」
「こんな感じかな。そうだなー、コツは腕の力を抜くのと、嫌いな奴を思い浮かべることかなー。なんてね」
「嫌いな奴…」
ふっと頭をよぎった。真人くんの顔が。
「おっ!気合入ったみたいだねー。じゃあ、思いっきり打ってみようっ!」
「あ、はい!えーっと。左足を踏ん張って右足で…」ブツブツ…。
平田さんの説明を思いだしながら、反芻して確認する。右腕に力を込めサンドバッグ目掛けて思いっきり拳を伸ばした!
グキッーーーーーーーー!!
大きな異様な音がジムに響き渡った。
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