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もう何時間経っただろう。すっかり日は暮れ、ビルの明かりと様々な種類の看板の光がアキバを照らしている。
「ふう~。今日はどうなることかと思ったけど、なかなかの収穫があったからよしとしますか~」
お気に入りのショップ前でつぶやきながら、買ったばかりの小さな紙の袋を出し、テープをはがした。中からフィギュアを二つ出した。今シーズンの人気アニメ「魔法少女マギド」のフィギュアだ。手に上に乗せると、今産まれたかのようにホクホクしてるように感じた。
「う~ん。なかななかの出来ですな~」
フィギュアを手の平にのせ、眺めながら駅に向かう。このひと時がたまらなく幸せ。
「おい!お前!」
後ろで誰かが気だるそうに人を呼んでいる声が聞こえた。なんだか嫌な予感…自分じゃないことを願いながら、気付いてないふりをして歩き続ける。
「おい!お前だよ!お前!」
声は大きくなり、あきらかに攻撃的なトーンになった。これはもしかして…手の上のフィギュアをさっとリュックのサイドポケットに入れ、恐る恐る振り返る。
そこにはアキバには似つかわしくない三人組の男がいた。いかにも渋谷にいそうな。確かBボーイとかって言うんだっけ?
「おっと!これはこれは。ササオタじゃねーか!」
「あれ?マサトさん知り合いッスか?」
一人の声に聞き覚えがあった。確か高校の同級生だ。うっすらとしか覚えていないけど。まぁ思い出したくもないけど。学校になんていい思い出はひとつもない。
「知り合いっつーか、高校の同級生でよ。こりゃ話はえーや。なぁ。ササオタ」
マサト…そうだ!中山真人(なかやままさと)だ。ササオタっってあだ名を付けた張本人。
「ど、どうも。ひ、久しぶり」
普通に答えたつもりだったけど、声が震えた。
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