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「そんなのどうでもいいんだよ!ほら!早く金出しな」
「あ、あの~。お金ないから…ほんとに持っててないから…」
「あ?なんだと!?少しぐれえあるだろうよ。おい!」
真人くんはそう言うと、後輩らしき二人に、アゴで指図した。二人はさっと僕の両側につき、ジーンズの両方のポケットに手を入れた。右側のポケットに入っていた財布を抜き出し、中を確認する。
「なんだよ。マジ入ってねえよ」
背が高く黒ずくめの男がそう言いながら少しだけ入っていた小銭を取り出しポケットに入れた。完全に空になった財布を真人くんに投げる。受け取った真人くんは、お札入れとカードを確認する。カードはアキバのショップのポイントカードばかりだ。真人くんは、あきれた顔をし、財布を僕に投げ返した。
「ほんとシケてんなぁ。仕方ねぇ。その中のもんだせよ。ゲームソフトとか入ってるんだろ。売って金にすっからよ」
真人くんは、すっと僕の前に立ち、肩ごしにリュックに手をかけた。この中には今日一日の成果がずっしりと詰まっている。真人くんからみるとただのガラクタかもしれないけど、僕にとってはどれもお宝だ。僕はさっとリュックを肩からはずし、胸の前でしっかりと両手で抱えこんだ。そのまま地面にしゃがみ込む。
「なんだよ!よこせよ!」
その声と同時に他の二人も加わり、三人がかりでリュックを引っ張りはじめた。意地でも離すもんか!
「よこせって言ってんだろうが!」
真人くんのイライラは頂点に達したようだ。右足で僕の太ももを蹴った。それが合図となり、他の二人もでたらめに蹴りはじめた。
「オラッ!ゴラッ!オラー!」
怒号と蹴りが飛び交う。何度も何度も。僕はリュックと頭を守るために、亀のように地面に丸まった。それでも蹴りは止まらない。
「ちぇっ!このオタクが!!今度会ったら覚えてろよ!おい!お前ら、もう行くぞ」
しびれを切れしたのか、真人くんは、諦めてアキバの裏路地へと消えていった。去って行く足音が遠くなってから、僕は、恐る恐る顔を上げた。
「ふう~。助かった~。誰一人として連れて行かれなかったよ~」
リュックをギュっと強く抱きしめ、中のフィギュア達を思い返してほっとした。今日はほんとうにツイてなかったなぁ。
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