第1R『オタクで何が悪い!?』

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 「ここは…?荻窪駅?あこたんの家って確か埼玉ってブログに書いてあったよなぁ。な、何か臭いますな~。これは事件の予感ですぞ!」 自宅に向かっていないことが分かると、少しだけ残っていた後ろめたい気持ちがすっかりなくなっていた。見つからないように、かつ、堂々と後をつけた。 歩くこと十分。ある建物にあこたんが入っていく。しばらく電柱の陰から建物を覗き、出てこないことを確かめると小走りでその建物の入り口へと向かった。 あこたんが入った建物には『彗星ジム』と書かれた看板がある。間違いなくここに入っていったと思うんだけど…。ジムって書いてあるけど、普通のスポーツジムとはなんだか様子が違うようだ。 「彗星ジム」と書いた看板がある建物を一望すると、腰ぐらいの高さに小さな窓を見つけた。あそこから中が見えそうだ。そっと中を覗く。 あれは?リング?リングが見える。サンドバッグも吊るしてある。ボクシンググローブもいっぱい置いてある。ってことは、ここはボクシングジム?あこたんは、本当にここに入ったのかな? 半信半疑のまま色んな角度から中を見ていると、ノースリーブとショートパンツ姿のあこたんが、奥のロッカールームらしい部屋から出てきた。手にはバンテージとボクシングシューズを持っている。 「あ、あこたんだー!!こ、これは、スクープですぞ!まさかあこたんがボクシングをやってるなんて!しかもそれを目撃できるなんて!な、なんという幸運。あこたんのボクシング姿かぁ。う、う、うわ~い!なんとも萌えーなシチュエーションですな~」 膝を地面に突いて、天を仰ぎ歓喜の声を上げる。雲一つない夜空に浮かぶ星たちが光を射して一緒に喜んでいるように見えた。 そ、そうだ!反射的にリュックに手を突っ込んだ。同時に絶望が押し寄せた。 「そうだった…カメラ、忘れたんだった…おお神よ!どうしてそんなにツンデレなのですかー!?」 再び膝を地面に突いて、天を仰ぎ叫んだ。まさに天国から地獄。先ほどまで見えていた星たちの姿も見えなくなっていた。道を行く人々の怪訝そうな顔が目に入りゆっくりと立ち上がる。 と、その時。 「どうも。こんばんはー」 後ろから誰かに呼ばれた。
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