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微かな違和感に薄目を開けると、私の左手首には蛇のように緑色の蔓が巻き付いていた。蔓の先には花が咲いている。三叉に分かれた茶色の雄蕊と五叉に分かれた黄緑色の雌蕊を囲むようにして、内側から茶、白、青と変化していく花弁のようなものがある。その色合いは何だか人の目のようにも見えて、私は薄気味悪さを覚えた。しっかりと巻き付いた蔓を手首から外そうと奮闘するが、片手でも簡単に引きちぎれそうな蔓は何度やっても切れることはなく私の手首にしがみついていた。どこかでこの花を見たことがある気もする。けれどそれがどこかは思い出せなかった。
花からはほのかに甘く、それでいて香辛料のような、辛みを感じる矛盾した匂いがする。その香りはカンナを、おそらくはもう二度と会わない人のことを思い起こさせた。墨を流したような黒髪。揺れるポニーテールの下に隠された、うっすらと汗の滲んだ白いうなじ。ギターを掻き鳴らす少し長い右手の爪。その姿ははっきりと思い描けるのに、毎日のように聞いていたはずのギターの音色は厚い霧の向こうに隠れていた。
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