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 そもそも、なってない。もっと声を響かせろ。囁くような声にだって芯というものが必要なんだ。芯のない声ではどこにも届かない。幸せを振りまきたいなら、私や新聞紙にくるまるホームレスにも届くような圧倒的な歌を身につけろ。そう、例えばこんな感じで。  足元から緑色の蔓が伸びて、私の体を拘束する。締め付けられた肺で強引に息を吸うと、焼きごてを押しつけられたようなうなじの痛みを感じた。  ストリートミュージシャンの男の歌にハモリを重ねる。カンナの無茶な要求をこなし続けた私には造作もないことだった。カンナときたら、同じメロディーでコードを変えるなんてしょっちゅうだし、ハモリのメロディーが歌入れ直前に変更になることもある。  メロディーの音を消してしまわないように。でも綿毛のようにふわふわした音に色を添えるように歌う。熱を冷ましに来たはずなのに、どうして私は歌っているのだろう。  不意に歌が止まった。男ははっきりとした二重まぶたの目を見開いて私を見つめている。削れたピックが彼の手から落ちた。 「カエルレアの、アオイ……?」 「ふうん。私のこと、知ってるんだ」  二十歳にもなってないのではないかと思うほどの童顔。男の歌っていた曲とはジャンルが違うから、カエルレアのことなんて知らないと思っていた。 「どうしてこんなところにいるんですか?」 「今日、仙台でライブだったからね」     
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