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 いくつもの皺が刻まれた老婆の手首には、私と同じ花が咲いていた。瞳のような花弁が虚ろに私を見ている。老婆の花の蔓は水分を失った皮膚とほとんど同化していた。この老婆は植物に命を吸われ、あどけない少女が一瞬で老いてしまった姿なのではないか。そんな妄想が頭をよぎる。何の含みもない笑顔を浮かべて老婆は首を傾げた。 「どうかしました?」  老婆の声は静かに空気を震わせる。掠れてはいるけれど芯のある、いつまでも聞いていたいと思わせる声だった。声には確かに年輪が重ねられている。短い言葉の中に私の心を少し解くような深い優しさが含まれていた。 「……その花、何なんですか?」 「わたしのもう一人の相棒のようなものですよ。あなたくらいの年の頃からずっと一緒にいるの」  風が吹いて、古びた駅舎を揺らした。ガタガタという音が私から言葉を奪っていく。何も言えないでいると、老婆の左手首に巻き付いていた蔓が、枯木のようなその腕を蛇にも似た動きで這い回り、細い首筋にまで辿り着いた。しかし老婆は相変わらず無垢な笑顔を浮かべている。植物に身を任せているようにも見えた。  このままではきっと老婆は死んでしまう。私は勢いを付けて立ち上がった。しかし老婆は植物に触れようとする私の手を、思いの外強い力で止めた。老婆の瞳が炎のように揺らめき、熱風が一瞬だけ私の頬を撫でる。何か硬いもので殴られたような衝撃が私を襲った。 「そろそろ列車が来ますよ」     
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