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「何だか意外だなぁ。カンナちゃんの方が飲みそうなのに」
平松さんに笑みを返しながら、グラスの日本酒をちびちび飲む。カンナにはオヤジくさいと言われたけれど、結局これが一番少ない酒量で楽しむ方法だ。
「アオイちゃん、今日のライブ良かったよ」
「そうですか? 平松さんに褒められると嬉しいなぁ」
平松さんは私たちの楽器の管理を一手に引き受けている。この道十五年のベテラン。私たち以外にも沢山のアーティストのライブを見てきたからこそ、厳しいことを言ってくることが多い。褒められたのはこれが初めてだ。
「まだまだ荒削りなところは多いんだけどね……今日は何か声を聞くだけで頭を撃ち抜かれる感じだった」
平松さんは右手で銃の形を作って、頭を撃ち抜く真似をする。ああ、かなり酔ってるみたいだ。普段はカンナ以上に寡黙な職人の雰囲気を醸し出しているのに。
「今日歌ってたときの感覚を忘れない方がいいよ。そうすれば誰にも負けないボーカリストになれる」
「……頑張ります」
笑顔が引きつってしまったかもしれない。声も少し低かった。私はごまかすために牛タンの炒め物を口に運んだ。
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