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 カンナの歪んだギターと田町さんのベースの冷酷な音色が鳴り響いた。それに合わせて激情を抑えずに「ただ知りたいだけなの」と喉から声を絞り出した瞬間、今まで考えていたことが全て塵のように風にさらわれていく。舞台に立っている私は歌の主人公そのものだった。自分を虜にする人の全てを知りたいのに、気持ち悪いと思われるのが怖くて何も言い出せない臆病な少女。無理に押し込めた想いは燻って、腹の中で無数の蛇のように暴れ出す――そんな私を、私は背後から見つめていた。赤く染めた私の髪の下半分が揺れ動いて、燃え盛る炎のようにも見える。  どんどん熱を帯びていく演奏に客が目を輝かせているのがわかった。歌の世界に狭いライブハウスが飲み込まれていく。拳を振り上げる人、ツアータオルを投げる人、私と一緒に歌う人、呆然と立ち尽くしている人――今までにないくらい、一人一人の観客の顔がよく見えた。客の目はもっと熱を寄越せと言っているようにも感じられた。でも私には見ていることしか出来ない。歌っているのは〈わたし〉であって私ではなかった。〈わたし〉の声は一瞬も表情を安定させない。夜を連想させる深い青と、朝焼けのような橙色が絡まり、明るい歌には憂いを、悲しい歌には優しさをまとわせる。それは曲の持っている色を少しだけ薄めていく気がして、カンナの作った曲を壊しているようにも思えて、私は舞台の片隅で唇を噛んだ。  〈わたし〉は約四百人の観客を見渡してから、次の曲のカウントを始める。その目は上空から獲物を狙う猛禽類のように鋭く、目の前にある全てを喰らい尽くそうとしているかのようだった。赤色の照明が〈わたし〉の血を滾らせる。けれど〈わたし〉の体に絡みついた蔦が締め付けを強くして、逃げ場のなくなった熱い血が逆流して私に流れ込んできた。     
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