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「上埜ありさって、Flower of HEATの?」
「はい。知ってますか?」
「そりゃあね。解散したときは驚いたもん」
Flower of HEATは四年前に解散した男女ツインボーカルのロックバンドだ。活動していたのは五年間だけだが、まだ邦楽が売れていた時代の終わりを鮮やかに彩った。彼らに影響を受けたミュージシャンは多く、かくいうカンナもその一人だ。
「いい声してるよね、上埜ありさ。あんな声だったらそりゃ歌手になるよなって思ったもん」
「そうですね。最初は倍音の少ない透明な声なんだけど、音の終わりがちょっと掠れて倍音が混じる。曲の本来持ってる魅力を引き出すけれど、無個性ではない。そんな感じの声ですね」
滑らかに話すカンナの口調は音楽雑誌のライターみたい。私は身体の底に、小指の先ほどの大きさの鉛の玉のようなものが沈み込んでいくのを感じた。
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