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 上埜ありさを語るとき、誰もがその声について褒めそやす。かつてトリプルミリオンを達成し、今でも第一線で活動するようなアーティストが「こんな声で歌いたい」と発言したことが話題になったこともある。自分も類稀なる声を持っていながら、それでも欲しいと思わせてしまう声。もしかつてカンナが教室で出会ったのが私ではなくて上埜ありさだったら――いくら振り切ろうとしても、そんな考えが頭をよぎってしまう。二人の話をこれ以上聞きたくなくて、私は急いで靴を履いて、行きたくもないトイレに向かった。  手洗い場の蛇口に手を近づけると、水が流れ出る。未だに熱を持っている私の身体に冷たい水が染みこんでいくのがわかった。トイレの窓は換気のためか細く開けられていて、そこから冬の風が吹いてくる。国分町の風は、仙台駅の風より少しぬるい。それでも風に当たっていると少し気持ちがよかった。  外に出てみよう、と思った。思えば仙台の街をほとんど見ていない。携帯はポケットに入れっぱなしだし、カンナにメールでもしておけば大丈夫だろう。私は濡れた手で頬を冷やしながら、そっと店を出た。  今日は一番町のライブハウスが会場だった。仙台市内のライブハウスはほとんど一番町にある。つくづくこぢんまりとした街だ。駅から歩いて行ける範囲に大事な機能がほとんど詰め込まれている。     
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