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天使は音と寝る
◆◆◆
「そんなに緊張しなくていいよ。どうせなんだから、楽しまなきゃ損だよ?」
あたしはラブホのソファーで縮こまっている男に言った。同い年のはずだけど、ちょっと幼く見える。
でも彼は今日、新たな一歩を踏み出すためにあたしのところに来たのだ。こうしてここにいるのも何かの縁だから、お互い楽しみたい。「初めて」は一度しかないし、今日という日がまた来ることもないのだから。
あたしみたいなのをオトナは刹那的と言うらしいけれど、それの何がいけないのだろう。あたしにはよくわからない。
「あの、木野さん……」
「琴音でいいよ。あたしもタクミって呼ぶから」
私は戸惑っているタクミを後ろから抱きしめ、右の耳たぶにそっと口付けた。少しだけタクミの体から力が抜ける。いい感じ。力が入っていては楽しめない。これからの二時間は、自分の快楽のためだけの時間だ。
「ねぇ、タクミ」
タクミはあたしと同じ長槻高校に通っているらしい。学科は違う。タクミは普通科で、あたしは音楽科。さっき待ち合わせ場所で会うまで、あたしはタクミのことを知らなかった。今もよく知っているわけではない。別に表面的な情報なんてどうだっていいのだ。
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