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額に滲んだ汗を拭って歩みを進めると、不意に海のような草原が眼前に広がった。セイタカアワダチソウの黄色が微風に揺れて私を手招きしている。導かれるように草原の中に入った私は、瞼を突き刺すような強い光を感じて上を見た。
何もかもを吸い込んでしまいそうな青い空が、どこまでも広がっている。小学生のとき、空の色を塗るときは上が一番濃い青で、下に行くにつれて水で薄めるといいと教えられた。けれどこの空は違っている。青はいつまでたっても濃いままだ。私が空を睨み付けても、空は何も言わない。それはただの青色でしかなかった。
まるで宇宙に投げ出されたみたいだった。微かな呼吸音が、どこにも響くことなく消えていく。足元の草を踏みしめた音すら聞こえない。蝉の声だけはやけに響いている。草が風に揺れる音もだ。私の音だけが、誰かに切り取られてしまったかのように聞こえない。
草原の中心まで辿り着くと、どこからか視線を感じた、汗が首筋を伝う。油を差し忘れた機械のようにぎこちなく首を巡らせると、そこにはいつも私の傍にある花があった。トケイソウ――それは本来、こんな高原に咲くような花ではなかった。この草原の中で、明らかにそれだけ浮いている。
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