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 じりじりと、太陽はむき出しの肌を()いていく。お前はこの世界に相応しくない、と太陽の言葉が聞こえる。そんなことはとうの昔にわかっていたのだ、と太陽を睨み付けると、耳に痛いほどの沈黙が襲ってきて、私は思わず目を閉じる。閉じた瞼の裏で青い光が動いていた。水面のように揺らめく光は徐々に私の平衡感覚を狂わせていく。上も下もない中空に私の体は投げ出された。  慌てて目を開く。ふらついた私の視界の端に、トケイソウの花が見えた。十字架に喩えられる()(しべ)に突き刺さる釘は()(しべ)、副冠は茨の冠で、花弁と(がく)は使徒を意味する――それは受難の花と呼ばれていた。  不意に、どこか遠くで声がした。  声は夏の雷のように私を貫いて、私を呼んでいた。けれどまるで外国の言葉のようで、何を言っているかは判然としない。旋律を持った歌のようにも聞こえる。  声の主はどこにいるのだろう。私はふらふらと草をかき分けてあたりを彷徨(さまよ)う。その声をもっと聴かせて欲しい。その声で私の名を呼んで欲しい。私の体を声の刃で深く貫いて欲しい。  どこにいるの、と尋ねようとして、喉の水分が全て奪われていることに気が付いた。膜が張り付いたようになって声が出ない。このままでは声が消えてしまう。消えてしまう前に、捕まえなければ。 「ま、って」  ようやく声が出た。けれど私が声を発したせいで、あの不思議な声は消えてしまった。全て夢だったのだと嘲笑う蝉の声。少し遅れて草が揺れる音も戻ってきた。私は憎んだ世界に、私のものではない世界に、一人取り残されたのだ。     
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