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「いらっしゃいませー」
毎朝7時丁度に、その子はうちの店にやってくる。
肩まである真っ直ぐの髪の間から見える小さい耳。
白いイヤホンで音楽を聞きながら制服のポケットに手を突っ込んで、真っ直ぐ俺の前……レジを横切ってカレーパンとリプトンのミルクティーを手にとって俺の元へ持ってくる。
俺は差し出されたそれを手に取りバーコードを読み取る。
読み取らなくても会計は覚えたが。
「237円になります」
俺の声を聞いてはいないだろう、レジに表示された会計を見てその子は小銭を財布から取り出した。
彼女が支払いをしているうちに、俺はレジ袋に商品をつめていく。
「ストローお付けしますか?」
言っても聞こえないだろうからストローを彼女に見えるようにして様子を伺う。
別に聞かなくてもこの子がどうして欲しいか分かっているのだが、少しでも長くここに留めておきたいという浅はかな願いからつい聞いてしまうのだ。
彼女はストローを見て首を縦に振る。
その瞬間は彼女を見ていても店員と客の関係が成立し許される。
伏せられたフタエの目。
その目が俺を捉えることは決してないのだろうとわかってはいても願ってしまうのだ。
そればかりはどうしてもやめられない。
「250円お預かりします」
レジに2、5、0を打ち込み、円を押すとお釣りが表示される。
俺は13円をレジから取り出し、レシートと共に彼女に差し出した。
「13円のお返しになります」
彼女はお釣りを受け取るために手を差し出す。
なんて白くて細い指先なんだろう。
なんて小さな手なんだろう。
制服のポケットに手を入れていても、この時季はきっとその指先は冷たく凍えているだろう。
俺の手でその手を暖めることが出来れば……。
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