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「お前……流石にそれは気持ち悪いぞ?」
「ですよね……わかっているんですけどね……」
同じシフトになりがちの大野さんには通勤ラッシュ後の暇な数十分によくどうでもいい話をする。
そこで俺はつい彼女のことを話してしまったのだ。
突きつけられる現実にわかっていても落胆し、肩を落とす。
「いや、アタシは恋愛に歳とか、なんなら男女も関係ないって思っている派なんだけどさ。気持ち悪いって言ってんのはその、行動とか思想とかよ。ほぼストーカーじゃん」
言ってから大野さんはタバコに火をつける。
大野さんは俺より3つ年上で、旦那もいる。
元ギャルでしたっていう雰囲気がバリバリ残っているからちょっと怖いが、基本的にはいい人だ。
「わかっているんですけど……でも、どうしようもなくないですか?」
「いやいや、結構いるだろ。コンビニの店員が話しかけてとか、その逆とか」
「でも、朝のあの時間は忙しいし客も多いし……」
「ばっかお前、そこは少し考えろよ。なんか、一言添えた連絡先の紙とか、レジ袋に入れて渡すとかさ」
言われて思わずなるほどと思ってしまった。
その発想はなかった。
何もいきなり愛の告白をする必要はないのだ。
お友達になりませんかって連絡先を送るくらいからでも、きっかけには出来るじゃないか。
丁度今日のこともあるし、彼女の中で俺が少しでも印象付いている今がチャンスではないか。
「……大野さん! それ採用です!! ありがとうございます!!」
「ば、ばっかお前、声がでけーよ」
何故か大野さんも少し照れていた。
「それにしても……大野さん、見た目によらず乙女な発想するんですね。手紙なんて……」
「……うっせーよ。ゴミ捨ててきたらさっさと上がれ」
尻を叩かれ、休憩室を追い出されてしまった。
俺は仕方なく、言われた通りゴミ出し作業をして、着替えて帰路についた。
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