あの日の君

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陽が陰っても真夏の空気はまだまだ暑い。 ため息をつきながら、近くのスーパーまでの道を歩き出した。 きゃあっという甲高い声が聞こえてそちらを見ると、浴衣や甚平を着た数人の子供達が歩いている。 そういえば、今日は近所の神社でお祭りがあると回覧板に書いてあったっけ。。 恐らく、子供達はそこへ行くのだろう。楽しみで堪らないという顔で笑いあっている。 無邪気な笑い声を微笑ましく思いながらスーパーへの道を急ごうとした時、一人の女の子が足がもつれて転んでしまった。 千鶴子が「あっ」と思ったのと同時に、女の子の泣き声が辺りに響き渡った。 友達の女の子が手を貸して起き上がったものの、浴衣の裾が汚れてしまっている。運の悪いことに白地の浴衣だったため、かなり汚れが目立つ。足から少し血も出ているようだ。 痛いのと、浴衣が汚れたことのショックからか、「痛い。どうしよう」と女の子の泣き声が更に大きくなった。 ハンカチかティッシュを貸した方が良いだろうか…でもこのご時世、お婆ちゃんとは言え知らない大人が話しかけるのは…と千鶴子が逡巡していると、 「かのんっ!おんぶして連れて帰ってやるから乗れっ!」 と、泣き声を掻き消すくらいの大きな声が響いた。 子供達の中で一番背の高い、恐らく少し年上の男の子が、かのんと呼ばれた子に背を向けてしゃがみこんでいる。 大きな声に気圧されたように かのん は泣き止み、おずおずと男の子の背中におぶさった。
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