あの日の君

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「あー、転んだんか。着替えにゃいかんな。怪我もしてるやないか。おぶって連れて帰ってやるわ」 敏明は近所に住む、3つ年上の子供だった。 もっと幼い頃は一緒に遊んだが、成長するに連れ、自然と距離ができた。同年代の男の子とカバンを振り回しながら歩いているのを良く見かけていた。 「ほれ、おぶされ」 背中をむけてしゃがみこまれる。 「でも…敏明ちゃんの服が汚れる」 「俺のシャツなんかどうでもいいさ。そのままじゃ祭りに行けんじゃろ?」 優しく諭されて、敏明の背中におぶさった。 思ったよりも大きく、広い背中だった。 「初子(はつこ)は先にお祭り行っとけ。他の子も来とるんじゃろ?千鶴子は後で届けたるけ」 友達に声を掛けて、千鶴子を背負ったまま家までの道を戻ってくれた。 家に帰った時 母に叱られたのか、その後の祭りはどうだったのかは思い出せない。 ただ、おんぶしてくれた敏明の背中が温かかったこと。 いつもより高い目線で見た景色。 沢山の赤とんぼが近くを飛んでいたこと。 何故か、そんなことの方が強く記憶に残っている。
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