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(心が弱ると襲ってくる)
たしかに何らかのストレスや不安を抱える人間から、症状が出たようにも思える。
「だけど」と、マイケルは独り言を言った。
「生活に不安やストレスを感じない人間がどこの世界にいるんだ?」
廊下には、一人だけだ。
溜息をついていると、ミーティングルームでデビッドの「うわあああ!」という悲鳴が聞こえたので、慌てて戻ると、無理心中でも考えたのか、マーサが白衣のポケットに隠し持っていたメスで、デビッドの腹を切除したところだった。
彼女自身も自分で自分を切ったらしく、利き腕ではない左腕が真っ赤だ。
「なにしてる!」とマイケルが叫ぶと、彼女は、こう答えた。
「試したのよ! あの症状は、なぜだが切り傷がついた人間だけにはでないの。なぜだと思う?」
「はあ?」
マイケルが首をかしげると、マーサは目を輝かせて答えた。
「あいつは傷つくのが嫌なのよ」
錯乱しているのか、とても正気には思えない。
「あいつって誰のことだ? いったい何を言ってるんだ?」
マイケルが問うと、彼女は「デビッドはおなかのぜい肉をこそぎ落としただけ、命に別状はないわ、安心してちょうだい」と、訊きもしないことをペラペラと答えてくる。
もはや会話も成り立たない様子だった。
マイケルは「おちつけマーサ、とにかく、おちついてくれ!」と、懇願したが、それを彼女は無視して「いいから! 治療を受けてちょうだい! これが唯一、助かる方法なのよ!」
そう言いながら、ジリジリと近寄ってきた。
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