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カシャ、カシャ。
曳田高明(ひきた たけあき)にとって殺人は自分の全てだった。
殺害した女性を、スマートフォンで写真に収め、フォト一覧に飾り、それをファッション誌やグラビア誌を眺めるが如く観覧するが、その審査には妥協を許さない。
専属モデルの体に傷や痣があってはいけない。衣類の乱れがあってはいけない。表情が暗くてはいけない。撮影の際のポージングにも一人一人個性を持たせるなどこだわりを持つ。
そのフォト一覧のアルバムを作る為の旅行。世間では『殺人カメラマン』と呼ばれる曳田にとって旅とはそう言うものだ。
カシャ、カシャ。
曳田はホテルの一室にあるバスルームで今夜のモデルにシャッターボタンを押す。
風呂上がりのモデルは肌の色艶もよく、洗髪して間もない長髪からは潤いとシャンプーやコンディショナーの甘い香りが残っている。化粧やメイクは綺麗に落とされているが、すっぴんと言うのもまた、曳田にとってはそそられるものがあった。
カシャ、カシャ。
写真を撮影し終えると、曳田はスマートフォンから今宵のベストショットを探しだし、その中の一枚を選ぶと、9月1日のアルバムに登録する。
ぴちょん、ぴちょん。
ロケを終えた所で、曳田は水滴が蛇口から落ちる音だけを残してバスルームから立ち去った。
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