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マリーが苛立たしげに首をふり、キースは息を飲んだ。さっき、確かに魔王はキースの炎を受ける覚悟をしていたように見えたのは、間違いではなかったのだと。
何故。
その問いはマリーから発せられる。
「私の炎の方が焼き加減がいいぞ? 何故キースにこだわる?」
魔王の視線がキースを捕らえ、微かな笑みを浮かべた。
「キースは俺を満たす。そんなものは他にいない」
今度はマリーが息を飲み、キースは目を見開いた。
そんなことは初めて聞いた。
まるで、自分と同じだと思う。キースの全力を受け止めるのは魔王しかいなかった。魔王はキースが自分を満たすのだと言う。
もう、それだけでいいと思った。
「なんてこった」
マリーが舌を打ち、同時に手の中で燃え上がる炎の柱を魔王に投げつける。
「お前は早々に殺すべきだった!」
魔王はそれを飛び避けたが、かすめただけで全身を焼きつくす炎から逃れるには遅すぎる。
呪文を唱えたのは無意識だった。
足が地を蹴ったのも無意識だった。
気付けば魔王の前に出て、炎を受け止めていた。呼びだした氷の呪文で炎を受け止めるが、地上最高の魔法使いから発せられた炎がやすやすと消せるはずもない。
「キース!」
背中で魔王の声がする。
何か言いたかったが、声を出す余裕もない。
何をしてるのだと叫ぶマリーの声が遠い。
本当に自分は何をしているのだろう。
――覚悟したはずだったんですけどね。
魔王を殺して自分も死ぬ。それ以外に道はないのに。それでも心の奥底で、キースは魔王との生を求めてしまったのだ。
「この、馬鹿が!」
罵る声は誰のものだろうか。後ろから聞こえた気もするし、前から聞こえた気もする。意識が薄れる。氷の呪文が押されている。
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