魔王の事情

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「それで、この草でベッド作ります?」  差し出された草を投げ捨てて、魔王は立ちあがった。まだ魔王になる前は、魔界の修羅を一人で生き抜いてきた身だ。軟弱なキース風情よりも優れた寝床を作ることくらい容易い。光ある人間界は魔界よりも様々な素材で溢れていて、それを手に入れる為に人間界を欲したくらいだ。  洞窟を出ると、何故かキースもあとをついてくる。  ――それにしても、今更、草の寝床か。  人間界で最も気にいっていたのが柔らかい布の寝床だというのに、である。 「キース」 「何です?」 「貴様、寝床くらい持ち込まなかったのか」 「あー、寝袋はあるんですけどね、せっかくだから手作りした方が時間も潰れるし、いいかなって思って」 「馬鹿なのか」  寝袋があるのならば、それを寝床とすればいい。一体キースは何を考えているのかと舌を打ちながら振り返ると、キースは面白そうに笑っている。 「寝袋がいいんですか? 魔王が?」  それに入った魔王の姿を想像しているらしいキースはしばらく笑い続け、それを見ながら魔王は妙な気分になる。こんなキースは知らない。燃えるような目で睨まれ続けたことしかないのだ。そのくせ笑い続けるキースの顔を片手で掴むと、見慣れた目で睨まれる。  ただの人間のように笑うキースと、魔王を追い詰める見慣れた目をしたキース、何故こうも違う顔なのだろうかと、魔王は苦々しく舌を打った。
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