魔王と寝床と釣り

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 魔王は存外、マメだった。  キースがベッドとした枯れ草の寝床が気にいらないらしく、近くで見つけた青々しい草も嫌だと言う。ついにはキースの寝袋を欲しがった。その時には思わず吹き出してしまったが。寝袋に入る魔王。あまりに愛らしすぎるではないか。  しかし魔王は寝袋に入ることはなかった。 「これですけど」  渡した寝袋をまじまじと見つめた魔王は、爪先でそれを引き裂いた。何をしているのか問う間もなく、それは一枚の四角い布になる。 「なるほど布団」  魔王は黙ったままで、今度はベッドそのものを見つめている。キースの作ったそれは、適当に切り倒した木の枝を紐で結び、筏のようにしたそれを床として、その上から枯れ草を置いていた簡易ベッドだ。  確かに、キースよりも頭一つ分は背の高い魔王にしてみれば小さいのかもしれない。  一体何をするのだろうと、面白く見つめるキースの前で、魔王は腕を組むとキースを睨む。 「もっと太い木はないのか」 「そこら中にありますよ。ただ、私はどうしても斧を使うのが苦手で」  斧で戦うのは得意なのだが、木を切り倒すとなると木こりには敵わない。  魔王はキースの言葉を最後まで聞くこともせず洞窟を出ていく。  ――でも、随分話しかけてくるようになったな。  なんとなく心躍らせながらキースも外に出ると、魔王は近くにあった木の幹を叩いてから、キースに向かって手を伸ばした。 「ああ、斧ですか」  きっと必要だろうと手にしていたそれを渡すと、魔王は片手で悠々と振り上げ、木の幹に打ち込んだ。まるで柔らかい茎を切ったかのように、それだけで木が倒れた。魔族の力は人間の何倍もあることは分かっているが、魔力を無くしてすらこれなど大したものだと、キースは思わず手を打ってから、そんな自分がおかしくなった。  ――何を感心してるんだか。  随分、便利な偽物を作ったものだ、と自画自賛しながらしばらく見守ると、魔王は倒した木の幹を縦から半分に裂き、それを洞窟に運んだ。 「凄いな、これから木の加工はお願いしましょう」  一人呟きながら洞窟に戻ると、魔王は運び込んだ木材を並べて、紐で結んでいる所だった。元々あったキースの作った枝筏もどきの紐を切ったらしい。それを見ながら、キースはまた吹き出した。  ――魔王の工作。
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