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指折りながらやりたいことを述べていると最後の方で魔王が嫌そうに眉を顰めた。
「俺は好きでここにいる訳じゃない」
食いぶち増えた、が気になったらしい。そんなことを気にするなんて存外可愛い、とキースは吹き出す。
「だったら貴方も何かやってくれます?」
「くだらん」
まあそうなるか、と苦笑しながら、キースは釣り竿を持ち直した。今日は天気がよくて海が荒れていない。きっとそこそこ釣れるだろう。反応を期待してのことではないが、なんとなく魔王に手を振ってから洞窟を出ると、驚くことに魔王がついてきた。こんなことは初めてで思わず立ち止まると、魔王は形の良い眉を顰める。
「早く行け」
これはもしかして、もしかして、一緒に釣りにいくつもりなのだろうか。
ええええええ!?
叫びそうな口をなんとか結んで、キースは黙って釣り場に向かった。
洞窟から坂道を下り、崖を飛び降りる。切り立った岩場を少し座りやすいようにならしたそこがキースの釣り場だ。いつものようにそこで竿を構えると、キースはちらと振り返る。
――いる。
魔王はキースの後ろで海に向かって座り込んでいる。
何をするでもないが、じっと海を見つめている魔王は妙に穏やかな目をしていて、魔王でもこんな顔をするのかと不思議になった。
そのまましばらく釣りをした。成果はまあまあで、小ぶりの魚と大きめの魚を少しずつ釣った所で竿を引き上げる。するとそれまで黙って海を見つめていた魔王がようやく口を開いた。
「それだけか」
「少ないです? 貴方、魚好きなんですか」
「その方法も面倒だ」
「は?」
魔王はすくりと立ち上がると、そのまま海に飛び降りた。何をするのだと見守るキースの前で、魔王は海面を叩いた。それからすぐに上がってくる。濡れた銀の髪が頬にまとわりついていて、綺麗だと思った。
「早く取れ」
「はい?」
顎で示された海を見ると、魚が浮いている。キースが釣った分の何倍もの魚が死んだように海面に浮いていて、キースは魔王の濡れた服の袖を掴んだ。
「何やったんです?」
「叩いた」
「叩いたって――」
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