1. TVスタジオ

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 政治経済の討論番組では、ゲストの論客はモデレーターたる司会に意見を求められた時、手短に専門的に応えることが要求されている。 「それでは日中のビジネスに詳しい阿川さんにお聞きします。中国は国連での北朝鮮制裁決議に同調しましたが、同時に米国にも北朝鮮政府と対話するよう求めています。 米国は北朝鮮が核開発並びに大陸弾道ミサイル発射実験を中止することが先決だと主張しているわけですが、中国としては、対話しない米国の責任だ、と北朝鮮のミサイル実験に眼を瞑りたいのが本音でしょうか」  司会の合図に応えて、祐介は喋り出した。 「いや、中国政府は本気で北朝鮮に核開発を止めさせたいと思っていますよ。 よく、北朝鮮が米国に届く核装備をすることは中国にとって対米戦略上メリットがあるので、中国は実は北朝鮮に核を持たせたいと思っている、との議論を耳にしますが、私の考えではそれは誤解です。 核開発を理由に米国が北朝鮮攻撃をしかけることは中国にとって脅威です。それによって北朝鮮難民に北方国境を越えて侵入して来られるのは迷惑だし、米国の攻撃を黙って見過ごすのも国家の威信に関わる。 実益中心の北京政府は、本心で北朝鮮に大人しくしていて欲しいと思っているはずです・・」  ゲストの論客が順に意見を述べ、華怜の番になった。 「北朝鮮は米軍との緩衝地帯たりえる中国の砦と言うより、目の上のたんこぶに過ぎないと思っています。中国は軍事力を格段に増強したとはいえ、米国の戦闘能力に比べまだまだ劣るのが現状です。米国とコトを構えたくないのが本音ではないでしょうか・・」  優雅な手振りを加えながら饒舌に喋り続ける華怜を、祐介は思わず見つめた。  長い髪を後ろで一つに纏め、広い額がいかにも知的で聡明な印象を与える。黒目がちの大きな瞳とすっきりとした鼻筋、鮮やかなリップを塗れば妖艶にさえ見えるであろう形良い唇。白い肌の端正な顔立ちは、いわゆる女優顔だ。  上海美人・・。  ふと華怜の面影に昔の記憶が脳裏を過りそうになり、祐介はあわてて視線をそらした。  隣に座っている防衛省出身の男が苦虫をつぶしたような表情を浮かべている。今宵の論客は先ほどから、中国の脅威をダウンプレーする、言わば中国親派的発言を続けていた。
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