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リベラルな元ジャーナリスト、元自民党、元新進党のコメンテーターは現政権を手厳しく批判する弁舌を買われ、テレビ討論の常連となっている。どうやら日中関係に毅然とした態度を取りかねない今の政権に交代して欲しいらしく、日米同盟関係より日中友好関係こそが大事だ、と言わんばかりだ。
番組の収録が終わり、「お疲れ様でした!」との番組スタッフの声を耳に、祐介も他の論客と共に席から立ち上がりマイクをはずした。
隣に座っていた元防衛省の男と二言・三言交わしながら、華怜に挨拶しておこうかどうか、迷う。いや、衆目が集まるスタジオで会話するのは得策でない。元新進党の男と立ち話に興じている華怜に眼で挨拶をしてから、祐介は控室に向かった。
テレビ局を退出しようと広いエントランスロビーを歩きながら、祐介はもう一度華怜の姿を思い起こしていた。
ほっそりとした白いトップに真紅のタイトスカート、テレビでは映らないであろうが紅いハイヒールをコーディネートしている姿は、大学准教授というより、航空会社のCAにでも見える。喋りも達者でソツがなく、アカデミクスに置いておくのは勿体ない逸材だ。
ふと視線を感じ、祐介は後ろを振り返った。
ロビーの太い柱の陰に、急いで誰かが身を隠したようだった。華怜でないことは、確かだ。カーキ色のコートの裾が垣間見えた気がする。
戻って確かめてみたい気持ちはあったが、午後は予定が詰まっていることを思い起こし、祐介はその誰かに背を向けた。
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