青空の価値

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 不運とは不幸の種なのだ、と僕は思う。    久しぶりに帰った実家は、もはや家ではなかった。 言葉の綾ではない。 早くに父を亡くし、呆け始めた母を施設に入所させることが決まって、実家は家としての役目を終えた。  築六十年を超えた木造建築を有効活用する手立ては思いつかず、僕は一人っ子で、大阪の会社に就職して以来ひとり暮らしをしている。 生まれ育った家がなくなるのは寂しかったけれど、結局解体することにした。  と思ったら、会社を辞めた。  きっかけはコーヒーメーカーだ。 こう言うと、聞く人は「それがどうして辞職につながるの」と返すのかも知れない。 しかし幸か不幸か、僕には言うべき友達がいなかった。 まあ、これも不幸の一つだろう。  話は、会社唯一のコーヒーメーカーが壊れたところから始まる。
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