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「そりゃあ、退屈そうな顔を見せるわけがないだろう。王族とはいえ、欠伸の一つでも漏らせばメディアに扱き下ろされるからな」
「俺は楽しかったですよ。ガラスペンも頂けましたし」
ガラスペンの書き味は素晴らしいですよ、と熱弁するガブリエルの横でロビンは手を振った。
「俺も中尉と同意見だな。伝統を軽んじるつもりはないが、どうしたって興味が湧いてこないものもある。人間の好奇心にはベクトルがあるんだ。なんにでも関心を持てるのは一部の天才だけ。俺は、兵器開発チームの視察や契約軍需企業の社外プレゼン参加ばかりだったらいいのにと思うよ」
「殿下の本音もきっと君と同じさ。だがそんな素振りは少しも見せない。人間である以上、どうしても偏ってしまう嗜好を認めつつ、王太子として公平であることを心掛けている。素晴らしいお人だよ。とても同じ20代とは思えない」
そうヨハンが呟くや、ノアの耳に微かなベルの音が届いた。反射的に音の方へ目を向けると、Tシャツの上にとりあえずジャケットを羽織っているといった格好の男が立っているのが見えた。恐らく騎士軍人ではない男は、店主に困ったような笑みを向けて何か言った後に店を見回し、その視線がノアのそれと交わった瞬間硬直した。
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