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ちょっと目が合った程度ではない。あまりにもしっかりとこちらを見つめてくるものだから、ノアは少し緊張を感じた。
先に視線を外したのは向こうの方だった。そっぽを向くように顔を逸らし、カウンター席に掛けてこちらに背を向けている。
いったいなんだったんだ。腑に落ちず首を傾げるノアに気が付いたロビンが、胡散臭げに例の男を顎で指した。
「知り合いか?」
「まったく」
「だろうな」
記憶力には自信があるので、彼と初対面であることは断言出来た。しかし彼の方は明らかにノアのことを知っている。スカーレット隊に所属しているのだから、多少顔が知られていることは自覚していた。しかし隊長でも幹部の人間でもない平隊員である自分を見てあんな反応を見せるのは理解出来ない。
僅かの間様子を窺っていると、ふと彼がこちらを振り向いた。また目が合うと、明らかに焦ったようすで正面に顔を戻す。
「君を見ていることは確かだな」
ヨハンは背凭れに身を預けて紫煙を吐いた。少しの遠慮もなく男を凝視している。ハッとなったノアは慌てて視線を逸らした。
「よしましょう。あまりジロジロと見つめるのは失礼です」
「それはお互いさまだろ」と、ガブリエル。グラスに口をつけながら、横目に男へ視線を向けている。
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