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「恐らく軍人だろうが……奇妙だな。この店に余所者が来るなんて。しかも1人で」
「問題を起こさなけりゃどうでもいいさ……あ、席を立ったぞ」
出入り口かお手洗いに行くのだろうという大方の予想に反し、立ち上がった男は他のテーブルには目もくれずまっすぐにこちらへと向かってきた。露骨に見つめ過ぎたか? いや、それは向こうも同じことだが、そんな理屈はどうでもいい。ノアも含め全員が、とにかく面倒事が起きないことを祈った。他軍との揉め事は身内のそれ以上に厳しい制裁が待っているからだ。
特に騎士軍はその特異な立場上、他軍より一層厳しく規律に則した行動を求められる。軍人には騎士軍に対し良いイメージを持っていない人が一般人に比べて割合多く、端的に言えば『嫌われやすい』集団であるからだ。
元々各軍の士官学校で切磋琢磨していたのに、誘いを受けて騎士軍に入隊した者を『裏切り者』だと感じる者や、嫉妬心を抱く者は多い。身内意識の強さと強い向上心がマイナス面にも反映されているのである。
結局、皆の祈りは届かなかった。寸前までしらばっくれようと視線を逸らして足掻いてみたが、やはり無駄だった。男はノアの真横で足を止めた。
「あの、よかったら一緒に飲みませんか」
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