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開口一番男はそう言った。ひとまず揉め事の気配は去ったので安堵する。声の主を見上げると、またもやばっちりと視線が交わってノアはたじろいだ。
どうしてこうも、彼は私ばかりを見つめるのか……。
なんとも居心地が悪い。逃げるように視線を逸らすと、ヨハンの姿が目に入った。少し驚いたような表情を一変させ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ノア、どうするんだ?」
「……私が決めるのですか?」
彼を卓に座らせるかどうかは、普通上司が決めるものだろう。つまりヨハンだ。怪訝な目を向ければ、彼ははっきりと呆れてみせた。
「いやいや、彼は君を誘ってるんだよ。2人で飲みたいってさ。そうだろ?」
ヨハンの問いに男は「はい」と申し訳なさそうに答えた。図々しいのか謙虚なのか、イマイチ把握できない。
「申し訳ございませんが、私は今上官と同席しておりますので席を外す訳には参りません」
丁重に正論で突き放すと、男が反応を見せる前にロビンが口を挟んだ。
「おい、他に言い方ってもんがあるだろ」
「これが最良の答えじゃないか。これ以上の答えがあるなら君が代わりに答えてくれ」
「君なぁ……」と彼は心外なほど呆れてみせてから続けた。「ガーデリーから帰国して数週間、期待して待っていたんだが、今になっても結局何の変化もないじゃないか。努力しますって言ったのは嘘か?」
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